M&Aアドバイス

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1. M&Aのタイミング

証券市場では、「安く売り、高く買う」という有名な投資家の言葉があります。人間は欲が深いので、売るときにはもう少し高く売りたいといってタイミングを逃し、買うときはもう少し安くなってからといって買うチャンスをのがしてしまうものです。株式投資をやったことのある方なら、身に覚えがあるのではないでしょうか。

M&Aでも同じことが言えます。決して、無条件に「安く売り、高く買う」を勧めるわけではありませんが、M&Aの目的と、それを実現するためのタイミングを考えると、結局「自分はどこまで価格条件面で譲歩できるのか」という問いに正面から取り組むことになります。

売る場合には、自分としては手放したい、資金調達して生き延びたいなどと考えたときには、買う側も安く買い叩きたくなります。もったいなくて手放したくない、とりあえず資金は必要ないが事業成長のためのチャンスがほしいといった時には、売る側の選択肢が多くなり、売る側にとって有利な取引となるでしょう。

買う場合には、M&Aへの動機の強さと探索のしつこさが問題となります。お買い得な案件がうまく転がり込むことはまずありません。買うタイミングは自ら作り出していくことが重要なのです。しつこく探索する意思があれば、高いと思ったら他の選択肢を考えられます。また、経営戦略の目的からすると他の選択肢がまずないなどということもあらかじめわかるので、買いの競合相手がいたとしてもタイミングを逸することはありません。ただし、そのような場合には、本当に「高い買い物」になる危険性があるので、M&Aの機会を失うことを考えると、どこまでの価格なら合理的に対応できるかを、あらかじめ分析評価しておく必要があります。

 

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2. 時間を買う

M&Aの買う側の目的として一番よく言われるのが、この「時間を買う」です。実際、事業をゼロから立ち上げ、顧客をつかみ、商品・サービスを磨き、組織を整備して、利益が出るレベルまで持っていくことを考えると、そこそこの利益の出ている事業やブランドがバランスシートの純資産額程度で買えるとしたら、非常によいM&Aのチャンスだと思われます。

もちろん、事業統合のための労力や、不必要な部門の整理など、M&A特有の難しさもありますが、競争環境が時間的な猶予を許さないという場合には、時間を買うことができるような潜在的な売り手がいるのなら、M&Aの実行以外に選択肢はありません。

ただし、そのような場合でも、事業統合の具体性とその取り組みによっては、買ったと思った時間がかえって時間がかかったりすることさえあります。したがって、M&Aにより時間を買う場合には、その後のことも念頭に入れて周到に準備しなければなりません。

 

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3. 使える経営資源を外部に求める

優秀な成長指向の経営者は、重要な経営資源は内部に蓄積して競争力の源泉とし、それ以外の経営資源は広く外部に求めようとします。成長への意欲が強いと、なんでも自前主義の限界を知り、提携を模索することになります。

しかし、キャッシュフローが潤沢で成熟期の事業の場合、成長への意欲そのものがそがれ、自前主義、独自主義になります。もちろん、それでも競争力の源泉がしっかりと確保できていればよいのですが、往々にして新技術や新規参入などによりいつの間にか事業は弱体化していってしまいます。それは、そのようにキャッシュフローが潤沢で、参入障壁が低い事業は、誰でもやってみたくなるからです。

やはり事業は、守ることより攻めることにより常に何がしかの成長を目指すことによって、初めて競争力が維持されるのです。そのためには、成長の鈍化・限界を感じたら、外部の経営資源を使えたら何ができるかを考えてみてください。M&Aにより、外部の経営資源を取り込めれば、新たな成長機会が生まれます。

 

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4. 後継者の育成と外部の血

残念ながら、ファミリー経営でなくても、どうしても適切な後継者がいないということがあります。もちろん、一代限りの事業ということで清算することもできるでしょう。とはいっても、事業がうまくいっていればいるほど事業の継続は逆らえない宿命となります。そのためにも、早めに外部の血を入れて手を打つ必要があります。

そのようなときには、M&Aにより、事業の継続と経営者の交代をすることが可能です。ただし、株主でなくなった場合、後継者のやり方に口出しすることはできなくなります。株主として残った場合には、所謂院政ということになりますが、いつかは将来の事業に対する責任を誰が負っているのかを、誰にでもわかる形で示す必要があります。事業への未練を断ち切れるのであれば、完全な売却により第2の人生を歩むことも可能になります。

 

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5. 会社の永続性と人の非永続性

人の宿命として寿命があります。また、年をとれば多くの人が少し楽をしたいと考えるものですし、それが自然だともいえるでしょう。一方、会社の方は誰かが引っ張らなければ、直ぐ立ち行かなくなりますが、引っ張る人がいる限り事業は継続します。いつかは後継者にバトンタッチしなければならないと思いつつ、自分が引っ張っている限り自ら引退を決断することは非常に難しいことです。

常に引退と後継者へのバトンタッチのタイミングを考え、選択肢を準備しておくべきでしょう。ファミリー後継者か、信頼できる内部後継者か、或いは優秀で信頼できる外部後継者か。なかでも、外部後継者についてM&Aを考えれば選択肢は大きく広がります。

 

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6. 株価を上げることはできるか

会社の持ち主であり、リスクマネーを供給してくれた株主に報いるには、配当もありますが、株価を上げキャピタルゲインの機会を与えることが一番でしょう。しかし、違法な株価操縦は論外として、株価を上げることは容易ではありません。自らの力で株価を上げることが難しい場合、M&A取引により株価を結果的に上昇させる方法があります。

買い手が株式市場で買ってくれれば株価は当然上昇しますが、無制限な株価の上昇を受け入れる買い手はいません。一方、既に市場集中の原則はなくなりましたので、市場外であれば、当事者同士の合意さえあれば、高い値段での取引が行えます。ただし、これは1/3以下の保有比率になる場合しかできません。買い手が公開企業の場合には、市場価格を大きく上回る価格に対しては説明責任がありますので、IRの対策が必要になります。

株価に対する影響を排除して大量の株式の取引をしたい場合には、終値取引という株式市場の制度を利用することになります。市場が引けた後、その日の終値で売り出す旨を公表し、翌日市場が開く前に取引を終えることができます。この制度を使うと、有利発行はできなくても実質的に相対で市場を通して取引することができます。

市場外の取引で1/3を超える株式等(オプションを含む)の保有比率になる場合には、例外なく公開買付をすることが義務付けられています。公開買付では、直前の株価を何%上回っているかをプレミアムといい、それにより既存の株主が応じるように動機付けることになります。もちろん際限なく価格を上げられるわけではありませんが、第三者機関による株価の算定を基本として、既存株主に応じてもらえるような価格を提案することができるのです。

 

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7. 現状を作り出した人たち

M&Aにより自分の思うようにできなくなる前に、経営者としての自分を支えてくれた他の役員や従業員に対して、何がしか報いたいと考えるのは自然ですが、それは現在の業績次第ということではないでしょうか。現在の業績にかかわらず報いたいというのであれば、あわてて退職金規定などを作るのではなく、自らの費用でできる範囲のことを検討されたほうがいいでしょう。

過去の寄与により現在の業績があるわけですから、買い手も通常、現在の業績がいい限り今後も残ってもらいたいと考えるのが普通です。今後も寄与してもらうためには、将来の業績に対する報酬としてストックオプションなどを与えることが勧められます。あるいは、業績にリンクした報酬などを工夫することもできるでしょう。

 

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8. 自分自身への報酬を切り出すには

日本のM&Aで、私の経験では、成立するような取引で、最初から経営者や株主などの当事者が金額のことをいってくることはあまり多くありません。最初から取引上の基本条件である金額を明確にすることは決して悪いことではありませんが、往々にしてただ自分の会社の値段を知りたいというだけという場合が多いように感じます。多くの場合は、会社の今後の成長のため、従業員のため、他の株主のためなど、自分以外の利害のためにM&Aを検討しているということを強調される傾向があります。もちろんこれらの理由に偽りはないとは思いますが、いつかは自分自身の取り分について言及することになります。

買う側にとっては、早く価格の話に入れた方がありがたいのです。それも直接的な利害関係者である経営者や株主に対する金銭的な対価について具体的な話をしたいのです。もちろん、M&Aの目的が事業戦略上の事柄であれば、そのことが大前提となりますので、平行して話していくことになります。何でもお金で解決できる訳でもありませんが、面子さえ保てれば金額次第という面もありえますので、早く自分自身への報酬のことを切り出すことをお勧めします。ただし、自分が主張していたM&Aの目的が表面上のものであり、真の目的は違うと思われると、本来の目的が果たせなくなりますので、原則は曲げず対価も当然必要という態度を守ることです。

 

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9. 「公正」な会社の値段とは

M&Aは価格があって無きが如しというふうに捉えられている方もいるかとは思いますが、会社の「公正」な値段とは、基本的に会社が生み出す将来キャッシュフローを資本コストで割引いた現在価値である、ということはファイナンスを少しでも勉強した人は誰でも知っていることです。だからといって、このDCF法が万能かというとそうでもありません。このほかに、類似会社の株価倍率との比較から評価するマーケットアプローチ、会社のB/S上の純資産、或いは資産負債を再評価した上での修正純資産に着目するコストアプローチがあります。

公開会社も場合には、市場の株価がありますので、それこそ「公正」価格だという見方もできます、しかし、市場価格は、市場の需給に左右されますし、情報の対称性(インサイダーと投資家が同じ情報を持つ)が保証されているわけでもないので、ゆがみがあってもなんらおかしくありません。ただし、市場価格から10%以上乖離すると「特別な価格」と見られて、有利発行手続きが必要になる場合があります。未公開企業の場合には、上場企業と比較したとしても、株式の流動性がないので、通常30%程度ディスカウントされます。

M&A取引の場合には、将来のキャッシュフローはいったい誰のものかという問題も起きます。会社の価値はシナジー効果を含んだものか、或いはシナジー効果は買収側のものなのか、という問題です。これは結局、お互いの交渉力を比較しての妥協ということになります。

さらにダイナミックな問題として、取引の対象にコントロールが含まれる場合には、コントロールプレミアムを上乗せするかどうかという問題もおきます。これは、コントロールがあればダイナミックなシナジー効果を引き出し新たな価値を生み出せるという仮定の下、どこまでその価値を対価として支払えるかと言うことです。

取引の競争者がいない場合には、物事はより単純になります。公開会社であっても純資産価額か、株価が低い場合には市場価格ということになります。未公開会社の場合には、純資産価額が基準となるでしょう。

いずれの場合でも、DCF法を基本としてみますが、将来のキャッシュフローの予測に合意理的な根拠がなければ何にもなりません。合理的な根拠を得るには、やはり現状の外挿線上の事業計画というより、売上・コスト・利益・投資の仕組みのわかるビジネスモデルを作らなければなりません。

 

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10. 情報の非対称性(連中はわかっていないということ)

株式市場では、業績はいいのに株価が低迷しているということもよく起こります。この場合、会社の業績や今後の方針をよく知ってもらうためにIRに精を出すことになります。株式市場では、情報の流通が不完全で、且つインサイダーと投資家の間では情報の圧倒的な格差があるからです。

しかし、IRに精を出したからといって必ずしも株価が業績を反映するようになるかといえば、必ずしもそうとはいえません。投資家の期待感のもとになっているのはもっと多面的な要因だからです。単なる市場の需給に対する判断かもしれませんし、今までのIRでの説明が実現しているかどうかかもしれませんし、儲かっているのに現金を貯めこむだけで配当政策を変えようとしないことかもしれませんし、技術トレンドや市場トレンドについて知らない情報源から違う見方を知らされているのかもしれません。或いは、残念ながらIRをする経営者自身が、何らかの理由であまり評価されていない場合もありえます。

もちろん、IRの価値を否定するものではありませんが、同時になすべきこともあるということをご理解ください。

 

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11. 経営の質と産業の成熟度の評価

株式市場全体の動向次第の面がありますが、日本の上場企業の半分近くは、株価が純資産価額、即ち清算価値以下という現実があります。理論的には、事業を継続するよりも清算して株主に清算価値を分配したほうがよい、ということができます。しかし、株式市場自体には情報の非対称性や不完全市場という宿命がありますので、必ずしも理論的にはいきません。

ただ、上場同業者の中に株価が純資産価額以上の会社があれば、やはり経営の質に対するひとつの評価だと見ることもできます。また、そのように捉える限り改善の方法として、M&Aを真剣に検討される価値があると思います。

一方、上場同業者の株価が全て純資産価額以下だとしたら、産業としてかなり由々しき問題です。産業として成熟から衰退に向かっているのに、統合ができておらず過当競争が起きているかもしれません。あるいは、新技術による陳腐化、新規参入者による価格破壊などの影響を見越しているのかもしれません。或いは、景気循環的な産業で、単に後退期に向かっているからかもしれません。景気循環的な場合を除けば、M&Aが起きて当然であり、自ら仕掛ける必要性があるといえるでしょう。

 

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12. 経営者にとっての買収と株主にとっての買収

最近はよく敵対的な公開買付で結局配当政策を見直すことになったとか、敵対的な公開買付を防ぐためにポイズンピルのような防止策を講じやすいようにすべきだという議論を見かけます。公開買付、それも敵対的な公開買付がありえるということは、資本主義市場にとっては基本的に健全なことで、貴重なお金をより効率的に使ってより大きい付加価値を生み出せる経営者に任せたい、ということを制度として可能にしていると見ることができます。しかし、一方では資本主義市場の健全な競争を破壊に結びつける独占のために買収を仕掛けているのかもしれませんので、注意が必要です。

敵対的な公開買付がありえるということは、会社の持ち主である株主と、株主から経営を商法により委託されている経営者にとって、買収の価値が違うことがあるということを示しています。公開買付というのは、外部の投資家が株主に対して市場外で直接相対取引することを提案することであり、そこから経営者の利害が基本的に排除された形になっています。

経営者が、このような敵対的な公開買付を防ぐために、条件付の新株予約権などを使ったポイズンピル(買収しようとすると新株予約権が行使されて希薄化されてしまう仕組み)などが米国などで使われてはいますが、それも最近はコーポレートガバナンスの面から抑制、廃止の方向で、日本でもまだ実務的にはかなり困難なようです。

一方、あらかじめ防ぐことはできなくても、仕掛けられてから経営者が堂々と反対意見表明するという方法があります。ただし、その理由は価格に対する評価を含めて合理的なものでなければなりません。また、上場企業や金融機関などの機関投資家は、親密な株主であってもいざ市場価格より明らかに高い価格が提示されれば、買付に応じざるを得なくなってきてしまいます。これが公開であることの現実です。しかし、グリーンメーラー的な、即ち余剰現金の分配のみを目的にしたと見られる投資家に対しては、配当政策の見直しと同時に、現金の使途としての事業目的をはっきりと説明することにより、有利な立場を勝ち取ることもできるでしょう。

今後は、コーポレートガバナンスの議論とあいまって、敵対的な公開買付もより多くの具体例が出てくることが予想されます。最大の防御策は、常に株主価値の極大化に勤め、業績が良い時も悪い時も株主とのコミュニケーションを心がけることだと考えます。

 

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13. 独立性の実態

独立性の維持には代償が伴います。一方、独立性の維持にこだわらなくなったとたんに経営上の選択肢が増え、独立性を取引材料にすることさえ可能になります。なにも1か0かの独立性を求めなければ、実質的なコントロールを維持しながらの成長が可能になるわけです。それでは、実質的なコントロールとはどのような状態のことでしょうか。

基本的には、会社が親子関係になり「独立性」を失うのは、株式保有比率が50%超か否かということになりますが、50%超をもたれたとしても実質的なコントロールを維持できる場合があります。例えば、役員会の過半を自分たちで押えている場合、役員会決議でできる範囲(典型的には合理的な事業目的のための新株発行や新株予約権付与)でコントロールが可能になります。或いは、親会社への利益誘導と見られる場合は、会社の利益への忠実義務がある取締役として反対の意思表示をすることもできるでしょう。

一方、50%以下の場合でも実施的なコントロールを失う場合があります。役員会の過半を握られている場合や、大きな借金がある場合などがこれに該当しますが、自らコントロールを失ってしまう場合もあります。雇われの身の人は、常に自分のボスを探しますので、たとえ20%程度の株主であっても筆頭株主であれば、あらゆる面で「配慮」することが多いのも事実です。話を聞き、議論をするのはいいのですが、会社全体の利益よりもその筆頭株主の利益を優先する必要はないのです。会社全体、即ち株主全体の利益を最優先とすべきなのです。

50%以下の場合には、経営上の選択肢がぐんと広がります。ただし、経営者が、その大株主よりも優れた自社の経営上のアイデアを持っていなければなりません。役員会過半の力もフルに発揮できますし、他の少数株主と手を組むことにより株主総会決議もコントロールできる場合があります。結果的には、このフレキシビリティーを利用できるだけの経営者の能力が問われることになり、うまくいかなければ実質的なコントロールを失うことになりますが、うまくいけば大きな成長機会を得ることもできるでしょう。

 

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14. 最後のよりどころ−役員会

役員会というのは、株主総会により株主から会社の経営を委任された取締役及び監査役により構成される会社の意思決定機関です。経営者、即ち取締役にとっては、その代表者が議長を勤め、召集権があり、候補者任命権があり、直接経営者の意思を反映することのできる場です。会社と直接利害関係のない社外役員が異論をはさまない限り、経営者の意思を押し通す最後のよりどころとなります。意思を押し通すというと聞こえが悪いかもしれませんが、一部株主と、或いは一部役員と意見の対立がありえることを考えると、経営者にとっては何が最終的な武器になりえるかを知ることは非常に重要といえるでしょう。

その最後のよりどころとなるのは、定款で定められた授権枠内であれば役員会決議で実行できる新株発行、或いは新株予約権の付与ということになります。ただし、有利発行は株主総会の特別決議が必要となります。とくに、第三者割当による新株発行は、その増資に合理的な事業目的があり、その事業目的の詳細な事業計画があれば、50%超であっても可能です。平成16年夏のベルシステム24による50%超の新株発行が、筆頭株主のCSKによっても差し止められなかった(東京高裁、平成16年8月4日)ことにより、一般的に認識されることとなりました。また、新株予約権を使った方法は、敵対的な買収を防ぐ日本版ポイズンピルとしての利用方法が検討されています。

逆に、株主の立場で対抗するための武器としては、臨時株主総会の招集ということが考えられます。ただし、株主が株主総会の招集権を持つには、3%以上を6ヶ月間保有してなければならず、手続き的にはまず会社側に要求して、受け入れられなかったら裁判所に申し立てることになります。この手続きには2ヶ月程度を要します。ですから、株主側にとっては強力な武器とはいえず、むしろ定時株主総会に合わせて行動した方がよいということになります。経営者側にとっては、非常に強力な武器であるといえ、たとえ株主総会で勝ち目がなくても、時間稼ぎしている間にこの武器を使うことができます。このことからも、株主にとっては、社外役員の存在がコーポレートガバナンス上いかに重要かがわかるでしょう。

 

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15. 株主権

1株(議決権1個)

  • 株主総会議決権
  • 代表訴訟提起権(6ヶ月前から保有)
  • 定款・株主名簿・計算書類などの閲覧謄写請求権

1%または300個以上を

6ヶ月以上継続保有

  • 株主総会議案提案権

3%以上を6ヶ月以上

  • 株主総会召集請求権
  • 継続保有 株主総会召集権
  • 取締役解任請求権(総会否決後、違反の重大事実必要)
  • 帳簿・書類の閲覧謄写請求権(継続保有条件なし)

20%以上50%以下

  • 持分法連結(15%以上であれば実質基準あり)

1/3超

  • 市場外での株式取得について公開買付義務

50%超

  • 子会社連結(40%以上であれば実質基準あり)
  • 株主総会において単独で普通決議(役員の選任など)可決

2/3超

  • 株主総会において単独で特別決議可決
  • 役員の解任
  • 新株・予約権などの有利発行
  • 合併・分割・株式交換移転・事業譲渡
  • 定款変更、減資、解散

 

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16. タイミングをずらすには

買収提案に対しては、「興味なし」とともに「突然いわれても」という反応がよくあります。提案側からは、突然でなければよいということかもしれない、即ちタイミングさえ工夫してやればよいという解釈が成り立ちます。今は無理なら将来は可能か、或いは将来ある条件が整えば可能かという質問をすることになります。

このように、意思決定のタイミングをずらす具体的な方法としては、金融取引上の道具であるオプションを使うことができます。既存株に対してはオプション契約、新株でしたら新株予約権ということになります。もちろん、将来の条件を行使価格だけでなく他の条件をつけることもできるでしょう。さらに、将来のある時点で被買収側が意思決定する権利を保有するような仕組みさえも作れます。要は、実際にその時点になって結局どういう取引をすることになるのかということです。

 

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17. 相手の思うようにさせない方法

誰しも自分のやりたいようにやり、他人からは指示されたくないと思うものですが、実績が伴わないと他人、ここでは株主や債権者から疑問を呈されることになります。そういう意味で、一番重要なのは、常にリーダーシップを発揮して事業上の実績をあげることです。それでも、意見の対立がおこったら、やはり多数派工作が必要になります。

役員会や株主総会などの会社意思決定機関で多数を占めるには、定足数の工夫、召集権や議案提出権などのコントロール、許される範囲での個人的な利益誘導や説得やIRによるシンパ作りが必要になります。

ただし、役員自分自身が忠実義務違反とならないようにし、むしろ相手が忠実義務違反(取締役のとき)、或いは少数株主の利益侵害(株主のとき)になるかもしれないことを指摘して圧力をかけることができればよいでしょう。

逆に、株主の場合、身勝手な経営者に対しては、最終的には他の株主や債権者から賛同を得て多数派となることが重要です。事前に役員を派遣しておくことも重要です。ただし、賛同を得るだけの合理的な理由と、敵対的な公開買付や委任状闘争をする覚悟が必要となります。

 

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18. いつかはコントロールを取る方法

日本の場合50%以下でも実質的なコントロールができるといっても、いつかはコントロールを取り安心して子会社運営を任せたいと考えても不思議ではありません。ただし、ここで注意しなければならないのは、コントロールを取ると言うことは親会社として子会社の業績に責任を持つということになりますから、Yesマンにまかせっきりという訳にはいきません。

このような前提で、いつかはコントロールを取る方法としては、借金との組み合わせ、タイミングをずらす、将来相手に判断させるかたちを取りながら実質的にコントロールを渡す判断しかないようにする、或いは将来コントロールを渡す条件を決めておく、といったやり方が考えられます。

 

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19. 資本のコスト

バブル経済を体験した経営者であれば、資本のコストについて有る程度の理解はあるものですが、資金調達の方法によるコストの違いをはっきりと認識するのは簡単ではありません。金利や配当(正確にはコストではなく利益の社外流失、或いは持ち主である株主への利益の返還)以外に見えないコストがあり、また金利自体のタックスシールドの価値が理解しにくい面があるからです。

基本的に、金利が会社のキャッシュフローを不安定にさせるほど大きくない限り、株式よりも負債による資金調達の方がコスト的に有利です。なぜなら、債権者より株主の方が、弁済順位が低くより大きなリスクをとっている分、リターンに対する要求が大きいからです。要するに、株主の方が基本的に欲張りなのです。また、金利のタックスシールドは、会社に対する政府からの補助金として価値そのものと見ることもできるからです。

株式による資金調達が一般的に有利と見られるのは、大きな事業リスクが伴う場合、キャッシュフローが少なく不安定な場合、金利の上昇に対して株式市場が上昇している場合などが考えられます。株式による資金調達には、株式の発行(第三者割当又は市場発行)以外にも、CB型新株予約権付社債、優先株、種類株、新株予約権などがあり、タイミングの調整や議決権の有無や無利子負債との組合せなどの目的に使われます。ただし、これらのものは潜在株による希薄化や負債としての償還リスクや議決権復活などもありえますので、慎重な検討が必要です。

 

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20. 上場による資金調達の前提

上場を何のためにやるのかと言われれば、社会的な認知、人材確保、資金調達などの答えが返ってくるのが普通ですが、実際のところ創業者株主と従業員株主のキャピタルゲインが大きな目的であることは否定できません。キャピタルゲインが主目的だとすると、公開に伴う苦労や煩雑なIRのことを考えると、M&Aの選択肢も検討すべきでしょう。さらに、株式公開すると今度は簡単に持株が売れなくなる(インサイダー取引の問題、コミットメントの問題などがあります)という現実も考えなければなりません。

M&Aの選択肢があまりないということが上場の前提のひとつになります。M&Aの方が、大きな価値になる場合があるからです。株式市場は、プロの機関投資家がいるとはいえ、事業の真の価値をわかってもらうのは至難の技です。しかも、初値が公開価格を大きく上回ることが「勝ち」とされ賞賛される現実を考えると、思うような公開価格が実現されるとは限りません。それに対し、シナジー効果を生み出せる事業会社によるM&Aで、且つ強い興味を持ちそうな会社が複数ある場合は、M&Aによる取引価格は思いのほか高くなる場合があります。

 

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21. ファンドによる資金調達の条件

ファンドから資金提供の提案があったら、自社の置かれている立場とファンドの投資目的とスタイルをよく検討しなければなりません。一般的にファンドのお金は、普通の株主以上に欲張り(通常年率リターン30%程度を期待する)だからです。

事業会社によるM&Aや独自に株式公開する力があるときには、ファンドのお金を使う必要はありません。なぜなら、コスト高な資金だからです。ただし、それほどコスト高な資金を使うメリットがある場合もあります。危機的な状況で資金の出し手が極端に限られている場合、ファンドの投資先事業会社との相乗効果がかなり大きいと考えられる場合、スタッフが不足していて株式公開などについて意味のある援助を受けられる場合などが考えられます。

ファンドの多くは3年から5年で投資回収することを義務付けられていますので、常に株式公開かM&Aの機会をうかがうことになります。さらに、年率30%程度というリターンを確保するために、極限まで負債を使い投資コスト全体(株式と負債コストの加重平均)を抑えることになります。また、既存の経営者をうまくコントロールできると考えればマネジメントバイアウト(MBO)を提案してきますし、逆に経営刷新が必要とあらば外部からプロの経営者を連れてきます。ただし、日本で一般にMBOといわれているものは、本来の経営者による買収とはいえず、経営者にも少し株を持たせて利害を一致させ、外部に対する聞こえをよくするだけの負債中心の投資スキーム(通常日本ではLBOとまではいきません)でしかありません。

 

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22. マッチング(不動産と同じ仲介)の価値

残念ながら、日本では中小規模のM&A取引のほとんどは、不動産取引と同じ双方代理をする仲介業者により取次ぎされています。弊社は、双方代理をしませんので、逆に取引の相手からいくら払えばよいかなどと聞かれてびっくりすることがあります。いい取引相手に出会いたいので、双方代理で利益が相反しても、ついついお金を払うことになります。また、実際にお使いになった方はご存知とは思いますが、多くの仲介業者はまさにマッチングだけの機能しか提供できず、取引情報を独占しておきながら取引のために何もしない、或いはできないというのが現実です。

しかし、いい取引相手と出会う付加価値は、このような仲介業者によって作り出されるわけではありません。いい取引相手が、自社に興味を持つのは、まさに自社に魅力があるからです。いい縁を作り出した人に恩義を感ずる人は多いとは思いますが、仲介業者は普通あなたの会社の名前を勝手に使い(売りに出ている、或いは買いたがっていることをいう)、取引相手の興味を引き出し、あなたの所へ来て興味の有無を聞き、なければ同じような競争相手に持っていくだけです。それも、通常自分のネットワークの範囲内でしかとらえません。日本では、M&Aの数自体が少なく難しいこともあり、このような仲介業者が主流になっているのが現実です。

M&Aのアプローチは基本的に恋愛と同じです。本当に好きなら自ら声をかけるのと同じように、経営者自ら声をかけることに躊躇することはありません。多くのインターネット関連企業はトップ自らこのようなアプローチを取っています。幅広く、できるだけ秘密裏に探したいということであれば、代理人であるアドバイザーを使うことをお勧めします。

 

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23. 金融機関による利益相反

金融機関からの紹介でM&Aを検討する場合に注意しなければならないのは、利益相反の問題と探索能力の問題です。後継者問題以外のことで金融機関に会社売却の打診をすること自体、信用にかかわることになります。また、M&Aの情報を提供する金融機関の支店の利害は、本体のM&A担当部署の利害とは反することが往々にしてあります。さらに、自らのネットワークがある程度大きいからこそネットワーク以外に取引相手を求めることはあまりせず、やったとしても支店との利害関係上及び腰で、或いは調査はうまいが探索は下手という場合が多いように思えます。通常金融機関の場合は、黙っていてもM&Aの取引は飛び込んできますので、探す動機に乏しいとも見られます。

もちろん、実際多くの経験があり、仲介業者とは違い実務能力はありますので、使い方次第といえるでしょう。

 

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24. 外資の合理性

最近は、外資だからといって話も聞かないという例は少なくなっていると思いますが、M&Aの相手として外資がきた場合には、まずは話を聞いてみることが重要です。会っただけで話が決まる訳でもなく、自社の事業に対する新鮮な見方を聞くことができるかもしれないからです。

世界展開をしている外資の場合、もちろん日本的な経営への理解や人の重要性も十分認識しています。よく単純な外資ハゲタカ論を見かけますが、日本企業が誰も手を出さない大きなリスクを合理的な判断で大胆にとるのも外資です。指をくわえてただみていたのは、まさに日本企業なのです。もちろん、外資、日系に関係なくグリーンメーラーに近い投資家はいますので、注意は必要ですが、日本の経営者との信頼関係を築きたいと考えている多くの外資系企業は、十分検討に値する取引相手であることに違いはありません。

 

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25. ファンドの宿命と利用法

ファンドの中には、実際にハゲタカのようなことをするところもありますので注意が必要です。まず、相手はファイナンシャルインベスター、即ち数年以内にリターンを実現することを目的とする投資家であることを認識しなければなりません。そのための手段として何を考えているかが重要です。

株式公開によるキャピタルゲイン、グループ会社との提携を通してのシナジー効果の発現、事業会社への売却、他のファンドへの売却、大胆なM&Aを通して株価を上げ売り抜ける、配当政策を変更させる、経営陣を変えて経営刷新を図る、などなど様々ですが、投資後の具体的な計画(実名や数字や金額など)をきちんと説明してもらうことです。

ファンドは、その性格を理解しうまく利用することができれば、事業を大きく発展させることもできる場合があります。したがって、専門家を入れた検討をお勧めします。

 

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26. 意志の強さとチャンス

M&Aは、待ちの姿勢ではいい取引はできません。M&Aは、ある意味面倒くさい仕事であり、強い意志がなければ途中で必ず「何でこんなことをしなければならないのか」という疑問にぶつかることになります。意志の強さがチャンスを呼び込み、待ちの姿勢でいる限り何もおきないことになります。

この意味で、「いい話があればぜひ紹介してほしい」という程度の興味では、なかなかいい取引をものにすることはできません。価格面で、条件面で、選択肢の面で、いくらでも決断の逃げ道があるからです。戦略的にM&Aを推進していく場合でも、よほどしっかりと戦略的目的、予算、時期と具体的なターゲットを想定しておかなければなりません。常に、「やらない」という選択肢が魅力的に見えてくるからです。

 

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27. M&Aはトップの仕事

M&Aは、事業開発部や経営企画部などの仕事だと思われて、自分は報告を受けて判断するだけと思われている限り、成功はおぼつきません。M&Aは、基本的にトップの仕事だとご認識ください。しかも、相手を探すことや、相手を説得すること自体を自らやることにもなります。

相手の興味や意思を聞く場合、わけのわからない仲介業者に聞かれた場合と、金融機関から聞かれた場合と、代理人としてのアドバイザーから聞かれた場合と、経営トップから直接聞かれた場合とで、相手の反応が違うというのは容易に想像していただけると思います。本当に興味のある相手には、トップ自ら聞かれるのが、一番効果があります。ただし、戦略的な目的や相手にとってのメリットなどをかなり具体的に説明できなければなりません。

トップ自ら交渉しなければならないことは、指摘するまでもなくお分かりとは思いますが、交渉のチャネルをうまく使い分ける必要があることは、あまり理解されていないように思えます。M&Aは、最後は価格と条件のぎりぎりの交渉になりますから、押したり引いたりすかしたりといった交渉戦略のために、いいづらいことをずけずけいう悪者、妥協を引き出す指導者、ひたすら事業のことだけ重視する人などなど、様々なキャストが必要になります。このような役者をうまく使うには、プロデューサーとしてアドバイザーをうまく使い、関係者間で情報を共有しつつ、複数の交渉チャネルを使い分ける必要があります。間違っても、仲介業者に交渉チャネルを独占させないことです。

 

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28. 紹介と探索

M&A案件は、紹介で入ってくるものだけを対象にしている限り、多くは中途半端なものになります。事業の相乗効果の面で、規模の面で、事業の質の面で、なかなかこれといったものに突き当たるのは難しいのが現実です。売り案件として紹介されるのは、まず事業上の問題を抱えた会社ということになりますし、世の中には買い案件だけはたくさんありますが比較させてもらえないからです。

紹介だけでなく、アドバイザーなどを使って相手候補の探索をすれば、もれなく比較し可能性のチェックができます。また、探索し相手の興味の確認をする過程で、自らの目的や計画もより具体的になってきますので、興味を引き出せる可能性も高くなります。比較できるということは、価格や条件の良し悪しの判断基準を作ることができるようになるということでもあります。

もちろん理想の相手が見つかるかどうかは、探索してみなければわかりませんが、少なくとも紹介だけに依存するよりその確率を上げることができます。

 

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29. 売ることによる成長

M&Aの目的としては「時間を買う」と共に、「事業拡大のため」という目的もよくあげられます。成長のために、買収を検討しているという新聞のインタビュー記事をよく見かけます。しかし、成長のための手段としては、買うだけでなく、売ることも手段となりえるのです。売ってしまえば元も子もないとお感じになるかもしれませんが、何も全て売ることはないかもしれませんし、或いはコントロールさえ渡さずにすむかもしれません。

あなたの会社の買い手がなぜ100%或いは3分の2超の買収を考えるかというと、それは完全に自分のものにして自由に事業を再編強化したいからでしょう。50%超の買収を考えるのは、最後は資本に物をいわせて自分の意思のとおりに動かしたいと思っているからでしょう。一方、50%以下でも出資したいと考えている場合は、多くの場合業務提携などの事業目的がはっきりしていて、且つ経営陣へのある程度の信頼があり、コントロールが取れなくてもとにかくお金を出してまで業務提携をする価値があるほどの相手だと見ていることが多いのです。これは、お互いにメリットがある業務提携だけなら、なぜ一方的に金を出す資本提携が必要なのかを考えてみるとよくわかります。

50%超、即ちコントロールを売る場合こそ実は相手のコミットメントを確実に得ることができるようになります。子会社のP/L、B/Sが親会社に合算されることもありますし、親会社は子会社の事業に関して、後戻りできない責任を負うことになります。問題は、親会社による利益の吸い上げや、経営陣の立場が不安定になることです。しかし、たとえ親会社からの役員といっても、子会社の役員である限り子会社に対して忠実義務を負っていますので、基本的に子会社の利益を守ることができます。経営陣の立場に関しては、できるだけ最初の取引のときに考え方を明確にしておくことです。子会社の継続的な事業そのものに価値がある場合は、通常経営陣がとどまることがむしろ条件になることのほうが多いのです。

さらに、3/2超、或いは100%という場合は、通常経営陣の交代を意味しますが、救済的な状況、或いは後継者問題があることが多いようです。経営陣が残ったとしても、持ち株を手放すと会社に対する経済的な動機が薄れますので、株主としてリスクをとった相手に経営陣を派遣してもらうことが、事業成長の鍵となります。この場合、事業の成長のための体制を作るためには、買収という形をとらず、合併をして事業を統合し競争力を強化する、株式交換をして完全子会社として援助を受けつつ生き残る、株式移転をして共同持株会社を作りより大きな事業の枠組みの中で成長のための事業の再編を行う、などの選択肢があります。

売ることは、まさに資金と新しい経営資源を手に入れ新しい成長の絵を描ける有力な経営手段となりえるのです。

 

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30. 判断基準を持つ

M&Aもモノやサービスを売り買いするのと基本的には同じですから、買う場合にはいいモノを安く、売る場合には信用を失わない範囲でできるだけ高く、というのが基本的な判断基準です。したがって、品質と量と価格について判断する具体的な基準を持たなければなりません。

M&Aで悩ましいのは、このような判断基準を持つ前にいったい何を売り、何を買いたいかがはっきりしないことがあることです。また、売り買いすることにより、何を手に入れ、何を引き渡しでもよいのかもはっきりしないことがよくあります。売る場合には、持株或いは新株、営業そのもの、資産、全体か一部か、経営権、コントロールなどを売ることになり、それにより現金、将来の現金、相手の株式などを自分が受け取る、或いは会社が受け取る場合があります。さらに、事業上の効果として成長の機会、優秀な経営者や従業員、新しい技術、新しい顧客や市場などを手に入れられることがあります。買う場合には、これらの売り物を手に入れ、現金や自社株式などを渡すことになりますが、売り手の事業上の効果と同じような相乗効果を得ることになります。

このように、M&Aの判断基準を持つには、M&Aの狙い、即ち戦略的な目的をはっきりと認識することが重要になります。

 

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31. アドバイザーの役割

アドバイザーの役割は、魅力的な相手を探すことだけではありません。基本的な使命は、M&A取引における顧客の利益を極大化することにありますが、探索以外では、具体的には価値の算定判断(バリュエーション)、取引構造の立案(ストラクチャリング)、そして交渉と取引全体のマネジメントです。

価値の算定判断については、アドバイザー以外でもサービスとして提供しているところがありますが、それ以外については、金融、法律、会計、経営などの広範囲な知識と経験が必要となりますので、提供できるアドバイザーは限られているのが現状です。また、大きな取引になるほど様々な専門家が必要になりますので、それぞれの役割を認識しコントロールする役割もアドバイザーが担うことになります。

ストラクチャリングに関しては、基本的に金融商品についての知識と経験、商法や証券取引法の知識、税金の知識がなければ無理なので、通常仲介業者や経営コンサルタントではできません。

交渉については、もちろんアドバイザーに完全に任せられるわけではありませんが、何が取引材料なのか、様々な交渉相手の利害の違い、何を主張し何を妥協できるのか、などの判断をし、様々な交渉チャネルを使いながら、顧客の利益を極大化するための交渉をオーガナイズしていきます。

 

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32. 秘密保持と実務対応

M&Aは、情報の漏洩についてかなり注意しないと、できる取引もできなくなることがあります。ですから、情報を共有する会社のメンバーを限定し、外部の専門家と話す場合でも秘密保持契約を交わすことになります。役員の間でさえも、情報を遮断することがあります。しかし、秘密裏に進めなければならないからといって、全てを自分たちごく少人数で進めようとするのは危険です。とくにM&Aはタイミングが重要なので、迅速な判断と決断が必要なときは、アドバイザーを含めた専門家の援助が必要になります。また、会社側でも、会計や法律に強いスタッフの参加が欠かせません。

M&Aの情報は、漏れたとたんに「そんな話はない」と言わざるを得なくなる場合、直ぐ実行せざるを得なくなる場合、公開会社で株価に影響して延期せざるを得なくなる場合など、取引の成否に直接かかわってきます。また、とくに公開企業の場合は、取引前の株価の上昇はインサイダー取引の疑念を招きますので、厳格な秘密保持体制を敷き、迅速に交渉・取引を進めなければなりません。

 

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33. 専門家の種類と役割

M&Aの取引には、専門家としてアドバイザー以外にも、弁護士、公認会計士、税理士、弁理士などの専門家、また証券会社、銀行、証券取引所、信託銀行、財務局などの組織がかかわることになります。また、M&A戦略立案のために経営コンサルタントを使うこともありますが、前記のような専門家の必要性は変わりません。バリュエーションだけなら、経営コンサルタントでも、証券会社でも、会計士事務所でもできる場合があります。

多くの専門家は、M&A取引の最終場面で行われる監査(ディーデリジェンス)で活躍することになります。買う側が売る側の会社の内容を、ある価格と条件で本当に買う価値があるのかを確認するために、法的な面、会計・税務の面、知財の面、経営の面などあらゆるところを徹底的に調べることになります。

取引の大枠を作るところまではほとんどアドバイザーだけですみますが、実行可能なストラクチャーの確認や基本合意以降は必ず弁護士を入れる必要が出てきます。M&Aを本当にスムーズに進められる弁護士は限られていますので、注意が必要です。

公開会社ですと、有価証券の法的な取り扱いのために証券会社や証券取引所、財務局、或いは信託銀行などがかかわることになります。また、公開買付となると、公開買付代理人として証券会社(法定には信託銀行などでも可能)を指名しなければなりません。公開買付や、株式交換・移転、合併などになると、第三者機関による株価や交換・合併比率の算定が必要になります。

 

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34. 優先交渉権と信義則

M&Aの話で一番陥りやすい勘違いの一つが、真剣な資本の話は一度に一つの相手としかすべきでないと信じて、相手にも自分は浮気をしていないと伝えてしまうことです。恋愛関係では二股をかけるというのは、ばれた途端に信頼をなくし相手から見放されることになりますが、資本取引がいくら見合いや結婚と比喩的に比較されるといっても、基本的にモノやサービスの取引と同じですから、できるだけ二股も、三股もかけるべきものなのです。モノやサービスを売ったり買ったりするときに、いろいろと価格や品質や条件を比較して取引するのと同じように、M&Aの取引でも、あるいは重要な取引であるM&Aだからこそ、できるだけ価格や品質や条件を慎重に比較検討しなければなりません。

しかし、ある程度価格や品質や条件について同意が成立した時点、すなわち基本合意書(LOIまたはMOU)を交わしてからは、通常独占的な交渉権を買い手に与え、売り手は他の相手と資本取引の話ができなくなります。これは、お互いに相手にコミットして、買い手はお金をかけて品質や条件について精査し、売り手は買い手にそのために全てを見せることになるからです。

もちろん、取引の相手にとって比較検討されているというのは、よほど自信がない限り愉快なことではありません。しかし、M&Aの目的が明確で相手に対する判断基準がある限り、合理的な探索と比較検討をすることになり、決して信義にもとることはありません。ただし、優先的・排他的な交渉をせず、取引の相手にも納得ずくで比較検討するには、与える情報や使う判断基準が公平であることが必要です。

場合によってははじめから排他的な交渉を求めてくる場合もあるでしょう。排他的な交渉を求めてくるということは、相手のコミットメントをあらわしていると見られるかもしれませんが、むしろ、早い時点で排他的な交渉を求めてくるということは、判断基準を変えてほしいといっていることになりますので、警戒が必要です。

 

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35. 比較検討して値段・条件を選ぶ

M&Aを「縁」に恵まれるか否かだと捉えている限り、メリットのある取引はできません。「縁」を自分で引き寄せ、自らの目的のために「縁」を作り出すことが重要です。そのためには、M&Aの戦略的な目的を明確にし、紹介に頼らない徹底的な探索をし、できるだけ多くの相手の興味を引き出してから、目的にあった判断基準を基に価格や条件やシナジー効果などを比較検討することです。最後は大きな決断がやはり必要になりますが、好きか嫌いか、たまたま知っているかどうか、などという事業とはあまり関係のない隠れた理由による決断は避けたほうがいいでしょう。

買い手の場合には、探索によりいかに多くの選択肢を持つことができるかが、最初のポイントとなります。次に、いかに相手を説得できるかが問題になりますが、通常最後は金額の問題になるにしても、最初はやはり事業のシナジー効果が相手にはっきりと認識してもらえるか否かが重要です。仲介業者や金融機関からの紹介に頼らない探索と比較検討のための社内体制を整え、トップ自ら探索や説得にかかわることにより、このようなアプローチを取ることができます。もちろん、アドバイザーがこのような探索や比較検討、交渉をお手伝いすることにより、より成功確率を上げることができます。

売り手の場合には、比較検討のためにはオークションの形態をとることが一番効果的です。ただし、オークションの形態をとるには、早い時点から興味を持つ相手に対して判断基準や情報の公平性を伝えなくてはなりません。話が進んでいる途中で突然オークションというわけにもいきませんので、そのようなときには複数の相手と話をしていることを伝え、独自の判断基準を示しながらも、価格と条件次第で優先的に取り扱うというような駆け引きをすることになります。オークションの場合には、探索の時点から計画的に渡す情報のレベルや秘密保持や興味の確認方法についてステップを決めておかなければなりません。通常、最初は名前なしの事業概況を見せて興味の有無の確認を行った後、秘密保持契約をしてからいわゆるインフォメーションパッケージを渡すことになります。このインフォメーションパッケージの目的は、相手に価格や条件についての最初のコミットメントをしてもらうことです。したがって、基本的な価格算定が行える程度の情報を入れてやらなければなりません。これらのプロセスは、慎重な情報のコントロールが必要になりますから、アドバイザーの援助が欠かせません。

 

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36. フレキシビリティーとコミットメント

M&Aも他の金融取引と同じようにリスクに対してリターンを得るという考え方が成り立ちますが、フレキシビリティーとコミットメントという概念を使うとより理解しやすく、判断の助けになります。これは、いつでも戻ることができる、いつでもやめることができる、他の選択肢がある、状況しだいで態度を変えることができる、といったフレキシビリティーの価値があるからです。実は、リアルオプションの考え方そのものなのです。

M&Aの交渉では、いつまでもフレキシビリティーを主張している限り何も決まらず、いつかはコミットメント(ある意味フレキシビリティーを放棄し退路を断つこと)が必要になります。そのために、途中でお互いのコミットメントを確認する意味をこめて、基本合意書を交わすことになります。

また、売り手が買い手にあまり多くの株式をもたれたくないと考えても、買い手の持ち株が少ないほど相手のコミットメントは期待しづらくなります。逆に、多くの株式、たとえばコントロールを持ってもらった方が、実は相手の退路を断つことができます。なぜなら、連結の親子関係になれば、P/LやB/Sが合算され、親会社の業績の一部となるからです。

基本的には、自らのフレキシビリティーを保持しつつ、相手のコミットメントをいかに得るかということが重要になります。

 

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37. 何が基本合意か

M&Aの取引では、通常価格や条件について基本的な合意ができた時点で基本合意書(LOI,またはMOU)を交わすことになります。通常、秘密保持などの条項を除いて法的拘束力をかけない方が多いのですが、取引に対する最初の具体的なコミットメントとなります。

売り手にとっては、価格や条件についての買い手側の基本的なコミットメントを得て、買い手に自らをさらけ出すディーデリジェンスに応じることになります。また、多くの場合、買い手に独占交渉権を与えることにもなります。買い手にとっては、この逆になります。

具体的には、取引の目的を明確にして、そのための取引の概要として取引の基本構造(ストラクチャー、方法と量と価格と時期についての大枠)、ディーデリジェンスの実施、取引の目的が戦略的な業務提携の場合は業務提携の概略、独占交渉権、法的拘束力の有無などについて記述することになります。基本合意といっても、ディーデリジェンスの結果次第ではやはりやめたいということもあるでしょうし、途中で気が変わるということもあるかもしれませんから、そのようなケースにスムーズに対応するために、違約金の条項をつける場合もあります。

法的な拘束力と公表の仕方については様々な選択肢があります。通常、上場企業の場合は、株価に対する影響や適時開示ルール上の重要事実となってすぐ公表しなければならなくなるのを避けるために、ほとんど法的な拘束力をかけないことが多いようです。しかし、場合によっては、退路を断つためにわざと公表することを選ぶ場合もあります。